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COLUMN スポーツ・競技

違和感は、身体からのサイン ── スプリンターが全力に戻るまで

けいれんや肉離れのあと、痛みが消えてからが本当の勝負です。全力で走れるようになるまで、トレーナーが何を見て、どう進めていくのかをお話しします。

2016年6月に書いた記事を、2026年10月に読みやすく手直ししました。文・TKC BODY DESIGN 代表 曽我武史

違和感は、大事なサイン

陸上競技のスプリンターにとって、違和感はとても大事なサインです。ただ、このサインを感じると、どうしても思いきり動くことが怖くなります。

その怖さの原因を探るために、医師と連携して検査をしてもらったこともあります。それでも多くの場合、はっきりした原因は見つかりません。

ある大会の決勝で、日本のトップスプリンターが、スタート直後に脚のけいれんを起こしながら、ひどくならないように走りきったことがありました。こうした微調整をしながら走れること自体がすごいのですが、誰にも予想できないことでもあります。

全力の世界

このレベルの選手が自己記録を破るとき、いわゆる「ゾーン」と呼ばれる領域を体験しているのではないかと思います。私たちが思いきり走るのとは、次元が違います。

世界の大舞台でメダルを取った、あるスプリンターは、練習で流して走っているつもりでも、ほかのトップ選手がまったく追いつけないほどの速さでカーブを駆け抜けていきました。「力むより、力まないほうが速いかも」と、よく話していたのを覚えています。

それでもレースになれば、コンマ数秒を追い込んで、まだ誰も知らない世界で戦います。

競技場のトラック

痛みが消えてからが、本番

けいれんや肉離れのあと、しばらくは痛みや違和感がでることがあります。程度にもよりますが、施術をしていくと、こうした痛みは比較的早く落ち着いていきます。

問題は、その先です。誰でも治癒期間を経て、日常生活では、痛みも違和感もまったく感じなくなっていきます。日常レベルの負荷には耐えられる、という段階です。そこから少しずつ練習を再開していきます。

このとき、トレーナーもいろいろな形でチェックしますが、最後は本人の感覚を頼りにするところがあります。

何を見ているか

ケアを担当するトレーナーは、患部の細かい状態だけでなく、動きに関わる部位とのつながりも確かめています。

たとえば、もも裏に違和感が出る場合。

  • 足が地面に着く瞬間(陸上では「接地」と言います)に課題があるなら、足元から膝、股関節、体幹の安定までを見る
  • 脚を切り返す動きに課題があるなら、体幹から骨盤、股関節、もも裏、膝から下のねじれ、足先までを見る

その中で、気になるところを細かく施術で修正していきます。関節は、動けば(曲げ伸ばしや捻る動作)ができればいいというわけでは無いんです。我々トレーナーと選手の間では、「使えている」「使えていない」という言葉で表現することがよくあります。

ある程度動ける感覚が戻ってきたら、少しずつスピードを上げていく負荷に耐えられるかどうかを確かめながら進めていきます。この時は、動きを流れで筋肉はどういった状態なのかを想像しなくてはいけません。地面に足がついて耐える瞬間。これは筋肉には、収縮した状態で引き伸ばされるような収縮(エキセントリック収縮)になります。この収縮形態が一番負荷が高くなります。そして、これを超高速で走るのが陸上の短距離選手になります。この選手自身が「これなら全力でいける」と判断できたら、動きを安定させるための修正とレース感への慣れに移っていきます。

最後にスイッチを入れるのは、選手自身

スイッチが入るタイミングは、選手によって違います。

  • レースを重ねながら、調子を上げていくタイプ
  • ウォーミングアップで仕上げていくタイプ
  • 会場に入ってから、あるいはユニフォームに着替えたときに集中のスイッチが入るタイプ

ある動きでは思いきりできても、別の動きではまだ全力は出せない。選手自身がそう感じていることも、あります。そして、調子が良く、思いきりいけそうな「ここぞ」というときに、自分の想像を超える力が出ることもあれば、スローモーションのようにゾーンに入った状態で無の状態で動いてベスト記録が出ることもあります。こういったわずかな違いでけがにつながる場合もあるのかもしれません。

「気のせいだよ」とは言わない

リハビリを進めていると、選手が「ちょっと気になるんですけど、ちょっと診て欲しい」と言われることがあります。

そのとき私は、気のせいだとは思わないようにしています。何かがおかしいから、選手の身体がサインを出している。そう考えるようにしています。

選手の感覚と、こちらの手の感覚とのすり合わせ。昔よりはずっと成果を出せるようになりましたが、まだまだ磨いていかなければと思っています。選手自身が「これならいける」と思えるところまで、一緒に調整できる存在でいたいと思っています。

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