以前に書いた記事を、2026年10月に読みやすく手直ししました。文・TKC BODY DESIGN 代表 曽我武史
僕にとって、ジョーカー
以前、為末大選手から「曽我さんは、僕にとってジョーカーなんです」と言われたことがあります。

正直、「?」でした。
一瞬頭をよぎったのは、トランプのババ抜きのババ。それとも最強のカード? でも、それでは話のつじつまが合いません。
こういう思い込みは、あとで勘違いになることがあるので、その場で本人に聞きました。
すると、「ジョーカー」と言ったのは、「最後の切り札」という意味だったのです。
えーっ、と思いながらも、ちょっとうれしかったのを覚えています。たぶん、顔はにやっとしていたと思います(笑)。
最後に決めるのは、選手本人
スポーツの世界では、最後の決断をするのは選手本人です。私は、どんな状況でも、選手自身が最終判断をするようにしています。
たとえば、けがをしたときや、調子がよくないとき。助言をしたり、状態を客観的に評価したりはします。ただ、試合に出るかどうかを決めるのは選手だと、私は考えています。
とはいえ、どうしても出場できない場合や、出場するとその先の競技人生に影響する場合もあります。そういう場面は、これまで何度もありました。
そのときも、私から頭ごなしに止めることはせず、必ず話し合います。
どんな状態であっても、フィールドで戦うのは選手です。トレーナーは試合会場までは関われますが、一緒に走ることも、動きを手伝うこともできません。試合の直前に微調整をすることはあります。それでも、最後の感覚を決めるのは選手本人で、トレーナーはその要求に応えられるかどうかが、プロとしての仕事です。
オリンピックとなると、選手は人生をかけて戦いに挑みます。4年に一度しかないチャンス。夢の舞台で戦える喜びをかみしめている選手もいます。
あの大観衆が見つめる最高峰の舞台の、緊張と興奮は、その場に行かなくては味わえません。
そんな選手から、こういう言葉をもらえたのは、本当にうれしかったです。
積み上げてきたことが、結果になる
選手は、自分が積み上げてきたものを糧に、試合に臨みます。そして、結果が出ます。当然といえば当然です。
トレーナーは、その身体の力をどこまで引き出せるか。その一部分で関わります。
マッサージなどのコンディショニングでは、ほぐしすぎても、ほぐさなすぎても駄目です。ここ一番のときに、ほぐされすぎた身体は、思った通りに動いてくれません。
選手それぞれに、仕上げ具合が違うことをよく理解しておく必要があります。そして、その選手のその時の状態を把握したうえで、最後の調整をしなくてはいけません。
気持ちが良いからといって、だらだら続けるマッサージは意味がないどころか、選手の調子を狂わせてしまうことさえあります。
必要に応じて、ストレッチをしたり、力を出させたり。筋肉に張りを出したり、反応を引き出したりすることを求められることもあります。現場では、あらゆることを、選手からまっすぐに求められます。
私が関わった日本のトップレベルの陸上選手の多くは、細かいところまで神経を張りめぐらせ、研ぎ澄まされた状態で試合に臨んでいました。
試合直前の、緊迫したウォーミングアップの一瞬一瞬まで関われるのは、トレーナーの醍醐味かもしれません。陸上のトップ選手は感覚も鋭いので、こちらも気が抜けませんでした。
今、この経験を
この張りつめた感覚は、普段診ている方々の施術にも活かされています。
日々の変化を感じながら、良い状態へ導いていく。元気な気持ちになれる身体でいられるように、一人ひとりのお手伝いをさせてもらっています。
みんなが元気になれば、自然と私も元気になります。



